韓国企業の日本法人で、バックオフィスの仕事が積み上がる構造 — 請求書制度の日韓差と、業務プロセスの設計
日韓では、請求書という同じ名前の書類が、それぞれの国内取引において別の種類のものとして設計されている。韓国は認証システムを経由した電子発行が法人の義務で、当局への通知までが一続きになっている。日本は様式が法令等で定められておらず、電子化するかどうかも発行者が決める。本稿では条文でその差を確認し、そこから何が導けるかを整理したうえで、合意した範囲の業務をどう分けるかを示す。
日本法人が立ち上がって、しばらく経つ。
本社への報告に、時間が積み上がっていく。数字を集め、様式を作り直し、韓国語に置き換えて送る。翌月また同じことをする。
制度の建て付けから見ると、そうなりやすい理由がある。日韓では、請求書という同じ名前の書類が、それぞれの国内取引において別の種類のものとして設計されている。
請求書は、両国で別の種類のものとして設計されている
本稿が扱うのは、両社がそれぞれの国内取引で身につけた前提の差である。本社と日本法人のあいだの取引に及ぶ課税や電子発行義務は、輸出入の扱いを含む別の論点になる。
制度の記述は条文および公的機関の公式ページから直接確認したものである(2026年9月時点)。そこから先の読みは、業務プロセスの可視化とAI・自動化の実装を行う AISolve 編集部の解釈であり、その旨を都度明示する。本稿は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する助言ではない。
韓国 — 発行から当局への通知までが一続きになっている
法人が国内取引で発行する税務上の請求書(세금계산서/税金計算書)は、電子で発行することが義務とされている。個人事業者には売上規模による線引きがあるが、法人にその種の線引きは置かれていない(出典/施行令)。
「電子で発行する」の中身は、次の4つの方法のいずれかにより、法定の記載事項を、作成者の身元および書類の変更の有無等を確認できる認証システムを経由して、情報通信網で発行することと定められている。掲げられているのは、基幹業務システム、発行を代行する事業者のシステム、国税庁長官が構築したシステム、そして電子発行に対応した現金領収書発行装置その他の国税庁長官が指定するシステム、の4つである。さらに、発行の翌日までに発行明細を国税庁長官へ送る義務がある。様式そのものも、法令に定めがある(出典)。
〈編集部の読み:認証システムの経由が要件に置かれているため、メールにPDFを添付する方法はこれを満たさない〉
電子で発行すべき者が紙で発行した場合には、供給価額に対する加算税の定めがある(出典)。
日本 — 様式は法令等で定められていない
日本の適格請求書(いわゆるインボイス)を、本稿では税金計算書と対比する。
条文上は「請求書、納品書その他これらに類する書類」とされている(出典)。交付を求められたときに交付義務を負うのは適格請求書発行事業者であり、**登録を受けた事業者が発行したものに限られる。**記載すべき事項は6つ定められていて、その第1号は発行者の氏名又は名称および登録番号である。そのうえで、6つの事項を満たしていれば、書類の名称は問わない。国税庁はこう書いている(出典)。
適格請求書の様式は、法令等で定められていません。 適格請求書として必要な次の事項が記載された書類(請求書、納品書、領収書、レシート等)であれば、その名称を問わず、適格請求書に該当します
別の設問では、手書きについても答えている(出典)。
手書きの領収書であっても、適格請求書として必要な次の事項が記載されていれば、適格請求書に該当します
電子化については、条文が「交付に代えて…提供することができる」という書き方をしている(出典)。**電子化するかどうかは、発行する側が決める。**国税庁も、どの方法で交付又は提供するかは発行する事業者が取引の相手方との関係等を踏まえて判断することになる、としている(出典 問24-4)。
記録の保存は、両方の当事者に求められる。交付した側は、書類の写し(電磁的記録で提供した場合はその記録)を保存する(出典)。受け取った側も、仕入税額控除の適用を受けるには帳簿および請求書等を保存する(出典)。
〈編集部の読み:韓国が当局への送信で記録を残すのに対し、日本は取引の両当事者の保存義務で担保する形になっている〉
〈編集部の読み:様式が定められておらず、名称も問わず、紙と電磁的記録のどちらでもよい。この3つが重なるため、**制度上は、受け取る請求書の形が取引先ごとに揃わないことがありうる。**登録番号のあるシステム出力のPDF、会計ソフトの帳票、手書きの領収書——いずれも要件を満たせば適格請求書になる〉
並べるとこうなる
| 韓国 | 日本 | |
|---|---|---|
| 記載事項 | 法令で定められている(4項目+大統領令で定める事項。第1号は供給事業者の登録番号と氏名または名称) | 法令で定められている(6項目。第1号は発行者の氏名又は名称および登録番号) |
| 様式 | 法令に定めがある | 法令等で定められていない |
| 電子発行 | 法人の義務 | 発行者が選択する |
| 「電子」が指すもの | 認証システムを経由した情報通信網での発行 | 記載事項を満たした電磁的記録の提供。交付・提供の方法は発行する事業者が判断する |
| 記録の担保 | 発行の翌日までに当局へ明細を送る | 交付した側が写し等を保存し、受け取った側も控除の要件として保存する |
| 紙で発行したら | 電子発行義務者には加算税の定めがある | 加算税等の定めはない(紙での交付が本則) |
〈**この表は制度の建て付けを並べたものであり、優劣の比較ではない。**どちらの制度も、それぞれの国の取引環境のなかで設計されている〉
その差は、どこで仕事が増えるか
**ここからは、上の制度差から編集部が導いた読みである。**実際に何が起きているかを測ったものではない。本社と現地法人のあいだで手作業がどれだけ発生しているかを測った公的な調査は、本稿の調査では日本にも韓国にも見当たらなかった。
1. 「請求書」の既定値が、両社で違う
韓国で仕事をしてきた管理部門にとって、法人相手の取引における請求書は、システムの中にあるものである。
日本で仕事をしてきた管理部門にとって、請求書は取引先から届く書類であり、届くものの形が揃うとは限らない。
**どちらも自国では正しい。**そして本社が日本法人の数字を求めたとき、この2つの既定値のあいだで、誰かが中身を読んで置き換えることになる。
2. 読み取る前に、判断が要る
本社に数字を上げる前段で、どこに何が書いてあるかを人が見て判断する工程が一段入る。ここは自動化の対象になりうる。ただし形が揃わないことを設計の初期条件として置く必要がある。同じ形が来ることを前提にすると、例外処理が後から積み上がりやすい。
3. 記録の担保の仕方が違う
韓国では、発行した明細が当局側にも記録として残る。日本は、交付した側が写し等を保存し、受け取った側も控除の要件として保存する形で担保する。
確認の材料をどこに求めるかが、両国で変わる。
どこを繋ぎ、どこで人が判断するか
日本の制度は、電子でやり取りしたものをデータのまま保存することを求めている。本社とメールでやり取りした請求書や注文書は、制度上は日本法人の側にあるはずである(出典。相当の理由がある場合の猶予措置は置かれている)。
そのうえで、合意した範囲の業務について、作業を3つに分ける。
| 分類 | 内容 | 判断の目安 |
|---|---|---|
| 自動化できる | 入力元と入力先が決まっていて、変換規則が書ける作業 | 毎回同じ場所から、同じ場所へ、同じ規則で移しているか |
| 人が判断すべき | 例外の扱い、金額の妥当性、どちらの国の前提で処理するかの決定 | 間違えたときに取引先や当局に影響が及ぶか |
| やめてよい | 誰も見ていない報告、二重に作っている資料、目的が思い出せない作業 | — |
**順序としては、「やめてよい」を先に外す。**自動化は、やめてよい作業を高速に実行する装置にもなる。外してから自動化に入れば、作る対象をそのぶん小さくできる。
そして**「人が判断すべき」を残す。**両国の制度が違う以上、どちらの前提で処理するかを決める場面は残る。ここで人が判断する形にすると、間違いが起きたときに理由を追いやすい。
**本稿の文脈で当社が扱うのは、この分類と、その後の業務プロセス・データ・システムの設計である。**本社側とも日本法人側とも、日本語と韓国語のどちらでも直接やり取りできる。
見えないものは、変えられない。 — 合意した範囲を、まず見える形にする
3つに分けるには、その前に合意した範囲の業務について、何をやっているかを並べる必要がある。並べる作業には、通常業務とは別の時間が要る。
**測る人が当事者だと、「止めたら誰が困るか」に自分で答えることになる。**自分が毎月作っている資料について、誰も困らないと結論できるか——当事者がその設問に答える構造になっている。
合意した範囲の業務について、当社が最初に伺うのは次の3点である。
- その作業に何人が関わっているか
- 1人あたり月に何時間かかっているか
- 3か月止めたら、誰が困るか
社外の人間が聞くと、この3つ目をそのまま設問として置ける。最初の1回を、当社が代わりに聞く。
まとめ
- 韓国では、法人が国内取引で発行する税務上の請求書は、認証システムを経由した電子発行が義務で、当局への通知までが一続きになっている
- **日本の適格請求書は、様式が法令等で定められていない。**交付義務を負うのは登録を受けた適格請求書発行事業者で、記載事項の第1号は発行者の氏名又は名称および登録番号である。その要件を満たせば名称を問わず、手書きでも成立する
- **記録の担保の仕方が違う。**韓国は当局への送信、日本は交付側・受領側双方の保存義務
- **それぞれの国で仕事をしてきた組織は、その制度に合った既定値を持つ。**本社と日本法人のあいだに人が入るのは、この既定値の差からの帰結だと考えられる(編集部の読み)
- **合意した範囲の業務を3つに分ける。**自動化できる/人が判断すべき/やめてよい。順序としては「やめてよい」を先に外す
- **「人が判断すべき」を残す。**どちらの国の前提で処理するかを決める場面は、制度が違う以上なくならない
- **並べる作業には、通常業務とは別の時間が要る。**そして測る人が当事者だと、止めてよいかの判断を自分で下すことになる
公的な相談窓口の使い分けについては、別稿で6類型に整理している。
日本と韓国のどちらの制度も、それぞれの国では正しく設計されています。問題が起きうるのは、そのあいだをつなぐところです。
当社は税理士・社会保険労務士・行政書士のいずれの登録も行っておらず、弁護士でもありません。税務・労務・許認可・法律事務に関する相談、およびこれらの書類の作成・提出手続は承っておりません。
**判断に必要な材料が揃うことを目標に、業務プロセスとデータの流れを設計します。**税務判断そのものは行いません。日本語・韓国語のどちらでも進行できます。初回は30分、現状の業務プロセスを伺うところから始まります。
→ お問い合わせ / サービスの詳細は 韓国企業 日本進出支援 をご覧ください。
本稿が依拠した条文・資料
**制度は改正される。**以下は2026年9月時点で条文本文および公式ページで確認した内容であり、実際の適用は所轄官庁または有資格者に確認されたい。
| 本文の記述 | 根拠 |
|---|---|
| 韓国:記載事項 | 부가가치세법(付加価値税法)第32条第1項第1〜5号(第5号は大統領令に委任) |
| 韓国:法人は電子で発行する義務/個人事業者の規模による線引き | 同 第32条第2項、同 시행령(施行令)第68条第1項・第2項 |
| 韓国:「電子的方法」=認証システムの経由と4つの方法 | 同 시행령 第68条第5項柱書・第1〜4号(第4号に現金領収書発行装置および国税庁長官指定システム) |
| 韓国:発行の翌日までに国税庁長官へ明細を送る | 同 第32条第3項/시행령 第68条第7項 |
| 韓国:税金計算書の様式 | 同 시행규칙(施行規則)第49条・別紙第14号書式 |
| 韓国:電子で発行すべき者が紙で発行した場合の加算税 | 同 第60条第2項第2号カ目 |
| 日本:交付義務者と適格請求書の定義・記載事項(第1号=氏名又は名称及び登録番号) | 消費税法 第57条の4第1項第1〜6号 |
| 日本:様式は法令等で定められていない | 国税庁 インボイスQ&A 問25(令和6年4月改訂) |
| 日本:手書きの領収書でも該当する | 同 問26(令和6年4月改訂) |
| 日本:電磁的記録の提供は「することができる」 | 消費税法 第57条の4第5項/同Q&A 問24-4(令和7年6月追加) |
| 日本:交付した書類の写し等の保存義務 | 消費税法 第57条の4第6項 |
| 日本:受け取った側の帳簿・請求書等の保存(仕入税額控除の要件) | 消費税法 第30条第7項 |
| 日本:電子取引のデータ保存と猶予措置 | 電子帳簿保存法 第7条・第2条第5号/同施行規則 第4条第3項 |