中小企業のAI導入は、どこに相談すればいいのか — 公的支援と民間、6つの相談先の「できること/できないこと」
「AIを入れたいが、どこに相談すればいいか分からない」という質問に、公式サイトの記載だけで答えを出す。本稿では日本の相談先を6類型に分けて整理した(この分け方は編集部によるもので、公的な分類ではない)。調べていくと、中小機構も東京都の公社も、そして本稿で確認した10か所のよろず支援拠点も、判で押したように同じ一文を掲げていることに気づく——「実務の代行は行わない」。同種の記述は米国のSCOREにもあり、韓国の現場クリニックも代行業務を支援対象外としている。ただし、その3つを1本の共通原理として束ねられるかは本稿では確認できていない。以下では、6類型それぞれの費用・回数・代行可否を公式ページの記載から整理し、民間が「最低ロット」で断る理由を業界統計から推し量り、相談に行く前に用意しておくと話が早い3つの数字を示す。加えて、すでに終了した『中小企業119』がいまも現行制度として案内されている公的機関のページについても注意を書いておく。
「AIを入れたい。でも、どこに相談すればいいのか分からない」
この質問に、公式サイトの記載だけで答えを出してみる。本稿では日本の相談先を6類型に分けて整理する(この分け方は編集部によるもので、公的な分類ではない)。費用も、回数も、どこまでやってくれるかも、各制度の公式ページに書いてある。
ただし——調べていくと、ほとんどの公的窓口が判で押したように同じ一文を掲げていることに気づく。「実務の代行は行わない」。
以下、数値と制度の記述は公式サイト・公的資料から直接確認したものである。そこから先の読み(なぜそうなっているか、どう動くべきか)は AISolve 編集部の解釈であり、その旨を都度明示する。
相談先は6類型に分けられる
| # | 類型 | 代表例 | 費用(公式表記) | 実務の代行 | 回数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 国の無料相談窓口 | よろず支援拠点 | 無料 | しない | 拠点により運用が異なる |
| 2 | 商工会・商工会議所 | 各地商工会議所 | 無料〜(会員向け) | しない | 継続相談を断る場合あり |
| 3 | 国の有料派遣 | 中小機構ハンズオン支援 | 17,500円/人日(税込) | しない | IT-A型 20回程度 ほか |
| 4 | 自治体の専門家派遣 | 東京都中小企業振興公社 | 11,750円/回+交通費実費の1/2 | しない | 一般型は最大8回 |
| 5 | 民間 SIer・コンサル | — | 有料(公的統計なし) | する | 契約次第 |
| 6 | AI専業・小規模事業者 | — | 有料(公的統計なし) | する | 契約次第 |
〈この表の「費用」「回数」列は、制度ごとに単位が異なるため直接比較できない。17,500円は専門家1人1日あたり、11,750円は派遣1回あたりで、1回の所要時間は制度により異なる。「回数」も、相談の予約回数・継続相談の可否・専門家派遣の回数という別々のものを並べている。金額の大小ではなく「代行するか/しないか」の列だけを横断的に読んでいただきたい。類型5・6の費用については§「なぜ民間は最低ロットで断るのか」で扱う〉
押さえておきたいのは、1〜4(公的)と 5〜6(民間)のあいだに引かれている線が「金額」ではなく「代行するかどうか」だという点である。
公的支援は無料だが、「どこまでやるか」が決まっている
よろず支援拠点
中小機構が公表した「令和6年度よろず支援拠点相談等実績」によれば、全国の相談対応件数は 717,618 件、成果確認件数は 9,305 件である(中小機構)。
〈この2つを割り算してはいけない。717,618 は「相談対応件数」=全ての相談に対応した当月の延べ件数の年計であり、相談した企業の数ではない(同一事業者の複数回相談を含む)。一方 9,305 は「累計値」と表記された別系列で、集計方式が異なる。また同資料は速報値である〉
肝心の「どこまでやるか」は、各拠点のFAQに書いてある。長野県よろず支援拠点のFAQには次の記載がある(長野県よろず支援拠点)。
当拠点では「実務代行・作業請負」は対応していません。あくまで「相談・アドバイス」の範囲となります。
書類の作成代行は当拠点では対応していません。
ご利用は、原則1日1時間となっております。1時間で終了しない場合は、次回に引き続いて相談いただくことになります。
誤解しやすいので補足すると、「1日1時間」は回数の制限ではない。同じFAQには「何度でも無料でご利用いただけます」ともある。1回が1時間、というだけである。
一方で、需要が集中している拠点では回数側にも制限が入り始めている。福岡県よろず支援拠点はトップページで次のように告知している(福岡県よろず支援拠点)。
2025年10月1日ご予約分より1事業者当たり、一月のご予約は4件まで(複数のコーディネーターの予約可能)とします。
これは福岡固有の措置であって全国共通ルールではない。ただし「たくさんのお客様の相談に対応するため」という理由が添えられている点は、この制度がどういう負荷の下にあるかを示している。
なお「実務代行をしない」のほうは、長野県だけの運用ではない。本稿で確認できた10拠点(北海道・神奈川・愛知・兵庫・福岡・高知・三重・栃木・島根・長野)は、いずれもFAQまたは「ご利用にあたっての留意事項」で、申請書類やホームページ等の作成代行を行わない旨を明記している。うち複数県は、次の同一文言を用いている。
行政手続き、融資手続き、助成金の申請手続きといった実務代行は行っていないこと等の理由により、利用者の要望するサービスを十分に提供出来ない場合があることをあらかじめご留意ください。
(高知/神奈川/北海道/兵庫/三重ほかで完全一致。文言が異なる島根・栃木・愛知も同旨)
〈ただし、中小企業庁・よろず支援拠点全国本部が公開する要領・パンフレット類に「実務代行を行わない」という全国共通の明文は見当たらなかった(関東経済産業局の令和7年度公募要領には「代行」の語が一度も出てこない)。各拠点に共通のひな形が配られていると見られるが、その出所となる全国レベルの文書は本稿では特定できていない。したがってこれは「制度としてそう定められている」ではなく、確認できた10拠点の運用が横並びで一致しているという水準の話である。実務代行を行うと明記した拠点は、本稿の調査範囲では見つからなかった〉
商工会・商工会議所
こちらは、そもそもAIやITの相談が来る場所として設計されていない可能性がある。
全国商工会連合会が中小企業庁の検討会に提出した資料(令和6年12月2日)によれば、令和5年度の商工会の相談指導件数は総計 2,536,942 件。内訳は経営一般 1,051,803 件(41.5%)、税務 460,065 件(18.1%)、労働 296,062 件(11.7%)と続き、「情報化」は 36,104 件、全体の 1.4% である(全国商工会連合会 提出資料)。
一方、日本商工会議所が同じ検討会に提出した資料では、2022年度の経営支援件数約157万件のうち「情報化」は 2% とされている(日本商工会議所 提出資料)。
〈この2つは〈年度〉も〈集計単位の名称〉も異なる(相談指導件数/経営支援件数)。両者を平均したり、レンジとして束ねたりすることはできない。以下は商工会(令和5年度)の数値だけを使って読む〉
商工会の相談指導 100 件のうち、「情報化」に分類されるのは 約1.4 件(1.4%) にとどまる。最も多いのは経営一般(41.5%)で、次いで税務(18.1%)、労働(11.7%)である。ここに「AIで何かできませんか」と持ち込むのが筋悪だという意味ではない。ただ、日常的にその相談を受けている場所ではないという前提は持っておいたほうがよい。
また、東京商工会議所は相談の注意事項として次の2点を明示している(東京商工会議所)。
業務遂行代行(資料作成、営業活動など)
(=対象外の相談として列挙)
同一内容での再相談や継続相談はお断りをさせていただくことがあります
中小機構ハンズオン支援(有料)
無料窓口より一歩踏み込むのがこれである。専門家が継続的に企業へ入る。IT分野には2つの型がある(中小機構 ハンズオン支援(IT分野))。
| 型 | 期間・回数 | 対象 |
|---|---|---|
| IT-A型 | 数か月〜10か月程度(20回程度) | ITによる経営改革を実施しようとしており、具体的な情報化構想やIT導入計画を持っている企業 |
| IT-B型 | 4か月程度(8回程度) | ITによる経営改革を実施しようとしており、そのための情報化構想を固めたい企業 |
費用は 17,500円(専門家1人、1日あたり。消費税込)。
〈公式ページの表記は「費用」であり、専門家への報酬総額のうち企業がいくら負担するかという内訳は公開されていない。東京都公社(後述)のように報酬と企業負担が分けて示されている制度とは、開示の粒度が異なる。また「20回」「8回」はいずれも「程度」であって確定上限ではない〉
制度の設計として重要なのは、「構想が固まっているか」でA型とB型が分かれている点である。固まっていない企業を排除しているのではなく、固めるためのB型が用意されている。後述する「断られる理由」の話と、ここは直結する。
そして、ここにも同じ一文がある(中小機構 ハンズオン支援「留意事項」)。
契約交渉や実務処理作業等の実務代行を行うことはできません
研修の実施や人材・販売先・提携先の斡旋・紹介はできません
自治体の専門家派遣(東京都の例)
東京都中小企業振興公社の専門家派遣事業は、専門家への報酬 23,500円 のうち、企業負担が 11,750円+派遣に係る交通費実費の1/2(残りを公社が負担)。一般型は最大8回で、申込は年度内に1度に限られる(東京都中小企業振興公社 専門家派遣(一般型))。
〈「有料・最大8回」は一般型の条件である。政策課題対応型など無料で4回までの類型が別にあるため、「東京都の専門家派遣は有料で8回」と一括りにするのは正確ではない〉
そして、やはり同じ一文が置かれている(東京都中小企業振興公社 専門家派遣事業)。
専門家派遣事業は意思決定に対する助言を行うものであり、業務の代行はいたしておりません。
⚠️ 検索で出てくる「中小企業119」は、もう終わっている
AI導入の相談先を検索すると、いまも**「中小企業119(専門家派遣事業)」が上位に出てくることがある。この制度はすでに終了している**。公式サイトの告知は次のとおり(中小企業119)。
「専門家派遣事業(中小企業119)」は今年度(令和6年3月31日)をもちまして終了いたすこととなりました。 ※専門家の派遣最終日は令和6年2月29日となります。
問題は、公的機関のページに現行制度としての案内が残っていることである。北海道経済産業局のサイトには「中小企業支援-中小企業119(専門家派遣)」の見出しで、1年度につき原則3回まで無料という説明と事務局の電話番号まで、終了の注記なしに掲載されたままになっている(北海道経済産業局、2026年8月時点で確認。このページには最終更新日の表示自体がない)。中部経済産業局のページにも同事業へのリンクが残っており、ページ末尾の最終更新日は2021年8月20日である(中部経済産業局)。
公的機関のページに載っているから現行制度である、とは限らない。制度名で検索してヒットしたら、必ず運営元の公式サイトで「終了」の告知がないかを確認したほうがよい。
なぜ民間は「最低ロット」で断るのか
ここまでで、**公的支援は1〜4のどれを選んでも「作ってはくれない」**ことが分かる。では民間に頼むといくらかかるのか。
先に断っておくと、SIerの最低受注額に関する公的統計は存在しない。IPAの『ソフトウェア開発分析データ集』は掲載中の最新版が2022年版で、公式に「事業終了に伴い今後の発行予定はございません」とされている(IPA)。したがって「相場は◯◯万円」と書いてある民間の比較サイトの数字を、本稿は採用しない。
代わりに、なぜ最低ロットが生まれるのかを業界統計から推し量ることはできる。
情報サービス産業協会(JISA)の『2025年版 情報サービス産業 基本統計調査』によれば、業態別の従業員1人当たり売上高は次のとおり(JISA)。
| 業態 | 従業員1人当たり売上高 |
|---|---|
| SIサービス型 | 36,839千円 |
| ソフトウェア開発型 | 24,056千円 |
| ITアウトソーシング・クラウド・情報処理型 | 21,616千円 |
〈この調査は「2025年版」だが、対象は2024年度(2024/4/1〜2025/3/31に終了した事業年度)である。母集団は JISA 正会員468社に対する有効回答300社(有効回答率64.1%)で、業界全体の統計ではない〉
ここから先は編集部の試算であり、JISAが示した数字ではない。
上記は請求単価ではなく、営業・管理部門を含む全従業員で割った売上高である。単純に12で割れば、SIサービス型で月あたり約307万円/人、ソフトウェア開発型で約200万円/人になる。
〈ただしこの数字を人月単価と読んではならない。SIサービス型の売上高には、協力会社への外注で生じた売上(作業した人は従業員数に含まれない)と、機器・ライセンスの仕入転売が含まれる。分子が膨らみ分母が膨らまないため、この値は実勢の人月単価を上回る方向に働く。逆に、間接部門を分母に含めている点は下方向に効く。2つのバイアスは逆を向いており、どちらが大きいかは本稿では判定できない。したがって「実際の請求単価はこれより高い/低い」のいずれも、この数字からは導けない〉
それでも読み取れることがひとつある。この業界は、業態によって1人あたり年間2,200万〜3,700万円(21,616千円〜36,839千円)の売上を回す固定費構造の上に乗っている。小口の相談が敬遠されやすいのは、価格が安いからというより、受注・見積・契約・要員手配という固定的な手続きコストが、案件規模に比例して小さくならないからだと考えられる。〈これは編集部の解釈であり、JISAの数字が直接示すものではない〉
一方で、類型6(AI専業・小規模事業者)はこの制約から自由である。間接部門を持たない事業者は、同じ仕事をずっと小さいロットで受けられる。ただしその分、稼働できる人数と、事業継続性のリスクは小さくなる。
〈ここは当社のポジショントーク込みなので割り引いて読んでいただきたい。AISolve 自身が類型6にあたる〉
【日本・韓国・米国】日本の選択肢は、多いのか少ないのか
ここが本稿でいちばん書きたかったところである。日本の中小企業支援を日本の中だけで見ていると「窓口が多くてありがたい」とも「たらい回しだ」とも読めてしまう。韓国と米国を並べると、線が見える。
| 観点 | 🇯🇵 日本 | 🇰🇷 韓国 | 🇺🇸 米国 |
|---|---|---|---|
| 無料で相談できるか | よろず支援拠点は無料(回数運用は拠点ごとに異なる) | 현장클리닉は有料(1日35万ウォン、うち企業負担20%)。※無料の相談チャネルは本稿では未調査(表下の注記参照) | SCORE:無料。SBDC:コンサルティングは no-cost、研修は low-cost |
| 繰り返し使えるか | 拠点により運用が異なる(長野「何度でも無料」/福岡「一月4件まで」) | 企業あたり年間最大5回、同一分野は最大3回 | SCORE のみ “as often as you need, for the life of your business” と明記(SBDCには回数の明記なし) |
| 公的支援が実装まで踏み込むか | 踏み込まない(中小機構・東京都公社は公式ページに「実務代行は行わない」と明記。よろず支援拠点は本稿で確認した10拠点のFAQ・留意事項に同旨の記載) | 踏み込まない(현장클리닉は세무조정 대행・특허출원 등록대행 등の代行業務を「지원제외 분야」に明示) | 踏み込まない。SCOREは “mentors will not do the work for you” と明記。MEPのみ client fees を伴う有料で “hands-on consulting and training solutions” を提供(製造業限定) |
| AI導入そのものを対象とした資金 | デジタル化・AI導入補助金2026(W29号で詳述) | AI 통합 바우처:課題あたり最大2億ウォン。需要企業+供給企業のコンソーシアム申請が必須/혁신 소상공인 AI 활용지원:STEP1で1,000社を公募し、STEP2選定の680社内外に事業化資金最大4千万ウォン(政府80%・自己負担20%) | SBA公式の助成金一覧に、AI導入そのものを対象とするプログラムの掲載はない(SBIR/STTR等はAI専用ではない) |
| 相談に占めるITの比率 | 商工会の相談指導件数で「情報化」は1.4%(令和5年度) | 本稿では確認できず | 本稿では確認できず |
| AI支援の担い手の実数 | 本稿では確認できず | 本稿では確認できず | AI Essentials 研修の修了スタッフ2,174名超、8,000社超がAI特化のコーチングを受けている。〈参考:MEPは製造業向けに約1,400名のアドバイザー・450超の拠点を持つが、これはAI特化の人数ではない〉 |
出典:현장클리닉/AI바우처(NIPA)/혁신 소상공인 AI 활용지원/SCORE/America’s SBDC/ASBDC AI U/NIST MEP(概要)/NIST MEP(サービス内容)/SBA Grants
〈韓国の AI 통합 바우처の所管は科学技術情報通信部・NIPA・韓国データ産業振興院であり、現場クリニックを所管する中小ベンチャー企業部とは異なる。また韓国側の無料相談チャネル(비즈니스지원단等)は本稿では調査対象としていない。表の韓国列は 현장클리닉 単体の条件であって、「韓国の公的相談は有料」という一般化ではない。AI 통합 바우처の年度予算額と選定課題数は、公式公告ページ上で確認できなかったため記載していない〉
〈「相談に占めるITの比率」と「AI支援の担い手の実数」は、単位が異なるため行をまたいで比較できない。前者は相談指導件数に占める構成比(率)、後者はAI研修修了者数・支援先社数・アドバイザー数(実数)であり、同じ尺度で測ったものではない。日本のAI支援担い手の実数、および韓国の該当データは本稿では確認できなかった〉
ここから編集部の読みである。
3地域を並べて最初に出てくるのは、「公的支援は実装しない」という記述が、3地域それぞれの公式ページに独立して存在するという事実だ。日本の「実務代行は行いません」、米国の “mentors will not do the work for you”、韓国が現場クリニックの支援対象外に代行業務を明示していること——表現は違うが、引かれている線は同じ位置にある。
〈ただし、この3つを1本の共通原理として束ねられるかは本稿では確認できていない。3国の制度当局が同じ理由でこの線を引いたことを示す公式文書は見つけられなかった。以下は編集部が並べて読んだ結果であって、各国政府がそう設計したという事実ではない〉
そのうえで、その先を誰が埋めるかの設計には差があるように見える。
- 韓国は、現場クリニックで代行業務を支援対象外としつつ、別途 AI 통합 바우처で民間への発注に資金を付けている。〈この2つは所管省庁が異なる別事業であり、両者を一体の政策設計として説明した公式文書は本稿では確認できなかった〉
- 米国は「相談の量」で押しているように見える。SCOREは無料で “as often as you need” と明記し、SBDCはAI Essentials研修の修了者を2,174名超まで広げ、8,000社超にAI特化のコーチングを届けている。作りはしないが、作れるようになるまで付き合うという設計に見える。
- 日本は「補助金と民間」に任せる設計に見える。相談窓口は多いが、相談から実装への橋渡しが制度として設計されていない。IT-A型が「具体的な情報化構想やIT導入計画を持っていること」を要件にしているのは、その橋を企業側が自力で渡ってくることを前提にしているとも読める。
exit_value の観点で言えば、日本の中小企業が置かれている状況はこう整理できる。相談する場所は足りている。足りていないのは、相談と実装のあいだにある「構想を固める」工程を、誰が、いくらで引き受けるかである。中小機構がIT-B型(8回程度・17,500円/人日)をわざわざ用意しているのは、まさにその工程に需要があることの制度側からの回答だろう。
よくある「断られる理由」は、そのほとんどが相談すべき理由である
相談をためらう理由として、よく次の3つが挙がる。当社の見解を先に書く。3つとも、相談を先送りする理由にはならない。
「目的が曖昧なので、まだ相談できない」
これは問題ない。むしろ「AIを導入したい」という動機そのものから始まる案件は珍しくない。目的が先にあってAIが手段として選ばれるのが理想形ではあるが、順序が逆でも、意欲がある状態は貴重である。何をしたいかを一緒に言語化するところから始めればよい。中小機構がIT-B型を「情報化構想を固めたい企業」向けに設計しているのも、同じ理由だと考えられる。
「データが整理されていないので、まだ相談できない」
整理されていない状態そのものが、いちばん語れる材料である。どこに何がどう散らばっているかは、その会社の業務プロセスの写し絵になっている。整えてから来ていただく必要はない。
「要件が固まっていないので、まだ相談できない」
要件を固めるのが仕事の一部である。固まっているなら、それはもう相談ではなく発注である。
ただし、お客様の時間を無駄にしない。且つスピード感を持って、より的確な対応ができるよう、決裁権のある方の同席をどこかの段階でお願いさせてください。
※最初から決裁者の同席は必須ではありません。
相談に行く前に、これだけ用意しておくと話が早い
当社が実際に事前アンケートとしてお送りしている項目を、そのまま開示する。他社に相談する場合でも、この6点が手元にあれば初回の打ち合わせの精度は上がるはずである。
- 困りごとTOP3 — それぞれについて、①いまどう対処しているか ②何人が関わっているか ③月あたり何時間かかっているか
- 業務のペインの体感 — 「毎回ゼロから書いている」「同じことを二度入力している」といった項目への自己評価(当社では10問で聞いている)
- 1年後のありたい姿 — 具体的でなくてよい。「問い合わせ対応を半分にしたい」程度で十分
- 生成AIの利用状況 — 全社契約か、各自が個人で使っているか、使っていないか
- クラウドの利用可否 — Google Workspace / Microsoft 365 の契約有無。ここで打てる手がかなり変わる
- 一人あたり人件費の感覚値 — 正確な数字でなくてよい。次節の計算に使う
特に 1 の②③(人数と時間) が、他の何より効く。理由は次節のとおりである。
その損失、いくらになるか計算してみる
「AIを入れるといくら儲かりますか」——この質問に正直に答えられる人はいない。その答えは導入してみるまで誰にも分からないからである。
一方で、入れていない状態に毎年いくらかかっているかは計算できる。答えは自社の中にあるからだ。式は単純である。
年間コスト = 関わっている人数 × 1人あたり月の作業時間 × 12か月 × 時間単価
時間単価が分からない場合、当社は3,500円/時を仮置きとして使う。
具体例で見てみる。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 関わっている人数 | 3人 |
| 1人あたり月の作業時間 | 8時間 |
| 期間 | 12か月 |
| 時間単価 | 3,500円 |
| 年間コスト | 1,008,000円 |
**この「3人・月8時間・3,500円」は、AISolveが2026年7月時点で置いている仮の値であり、統計ではない。**実際のヒアリングで出てくる値のうち、保守的に下寄せしたものを採用している。自社の数字を入れて計算していただきたい。
この式のポイントは3つある。
- 業務ひとつあたりの計算である。困りごとTOP3を出したなら、3つ分の合計になる。
- 新しく発生する費用ではなく、いま費やしている時間を金額に置き直したものである。ただし後述のとおり、これは機会費用であって現金支出とは限らない。
- この金額は「投資の上限」ではなく「回収の分母」である。 年間100万円の損失が見えている業務に300万円のシステムを入れるのは、「合わない」のではなく「回収に約3年かかる」という意味である。何年で回収したいかは各社の判断になる。
ただし 3 については、次の3点を必ず割り引いていただきたい。
- 削減率は100%にならない。 半分しか減らなければ、回収年数は倍になる。
- ランニングコスト(利用料・保守・再学習)が毎年乗る。
- 削減された時間は、残業代の減少や増員の回避に結びつかないかぎり、損益計算書には現れない。 時間単価3,500円は機会費用であって、現金支出の削減とは限らない。
〈ここは当社が実務で使っている考え方であり、会計基準や公的なガイドラインに基づくものではない〉
現場から出てくる時間の申告は、たいてい実際より少なめに出る。「そんなにかかっていないと思います」と言われた業務を実測すると増える、というのが我々の経験則である(検証された方法論ではない)。過大に見積もる心配より、過小に見積もる心配のほうが大きいと思っておいてよい。
W27号で扱ったとおり、PoCの多くは本番の成果に届かない。届かない理由のひとつは、そもそも「いくら損しているか」を測らずに始めるため、成果の基準が最後まで作られないことにあると考えている。この計算は、その基準を先に置く作業でもある。
費用の目安と、当社の立ち位置
最後に、当社の価格を開示しておく。
| メニュー | 規模 | 費用 | 内容 |
|---|---|---|---|
| AI基礎研修 | 〜10名 | 10万円 〜 | 半日/教材込み |
| AI基礎研修 | 〜30名 | 20万円 〜 | 半日/教材込み |
| カスタム研修 | 〜10名 | 30万円 〜 | 事前ヒアリング+教材カスタム |
カスタム研修に「〜30名」の設定はない。当社の研修は「傍観者を作らない」ことを条件にしており、全員が自分の業務で手を動かして、その場で1本作って帰る形をとる。この形式は人数に比例して負荷が上がるため、人数が増える場合は回を分けることを推奨している。半日で足りるかどうかは、相手の環境(Google Workspace の契約があるか等)に依存する。
そして、立ち位置について正直に書いておきたい。
当社は、研修だけで完結させることを目的にしていない。研修は、現場が実際に何をどう困っているかを最も早く把握できる場である。全員が手を動かせば、その日のうちに「この業務は自動化できる/できない」の当たりがつく。当社が入りたいのはその後の、実際の業務支援や仕組みの構築のほうである。
前節の計算式を思い出していただきたい。年間100万円の損失が見えている業務に対して、研修だけを繰り返し売るのは筋が通らない。測って、変えて、その効果を確かめる——そこまでを一続きにしないと、W31号で見た「使っているのに変わらない会社」になる。
まとめ
- 相談先は6類型に分けられる(編集部による分類)。公的(1〜4)と民間(5〜6)の境目は金額ではなく、実務を代行するかどうか
- 日本の公的4類型はいずれも「実務代行は行わない」と公式に明記している(よろず支援拠点は本稿で確認した10拠点。全国共通の明文は見つからなかった)。同種の記述は米SCOREにもあり、韓国 현장클리닉も代行業務を支援対象外としている(ただし3国を貫く共通原理と言い切れる根拠は、本稿では確認できていない)
- 民間の最低ロットは固定費の構造から来ていると考えられる。小さく始めたいなら間接部門の小さい相手が向くが、当社自身がその類型にあたるため、この見方には利益相反がある
- 「目的が曖昧」「データが未整理」「要件が未確定」は、相談を先送りする理由にならない
- 相談前に用意すべきは、困りごとTOP3と、それぞれの「人数」「月あたり時間」
- 入れたらいくら儲かるかは分からない。入れていない状態がいくらかかっているかは分かる
当社では、上記の事前アンケートをお送りしたうえで、ヒアリングを実施しています。まずは軽くご相談ください。
→ お問い合わせ
自社の現状をご自身で確認したい場合は、簡易診断もご利用いただけます。
研修の実施事例は AI活用研修の事例 をご覧ください。